1. HEMAとは?ジェルネイルに含まれる成分の基礎知識
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)とは
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)は、アクリレート系モノマーの一種で、化学式は C₆H₁₀O₃ です。正式名称は「2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2-Hydroxyethyl Methacrylate)」で、成分表示には「HEMA」もしくはその正式名称で表記されます。
もともとはコンタクトレンズや歯科用接着剤などの医療分野で広く使われてきた素材です。ジェルネイル業界でも長年にわたって主要成分として採用されてきました。
なぜジェルネイルに使われているのか
HEMAがジェルネイルに使用される主な理由は、その卓越した密着性にあります。HEMAは爪表面(ケラチン)との親和性が高く、ジェルと爪の間に強い化学的結合を作ります。これにより、ジェルネイルが長持ちし、リフト(浮き)が起こりにくくなります。
また、HEMAは光重合開始剤と組み合わせることでLEDライト照射によって素早く硬化するという特性があり、ジェルネイルの施術時間を短縮できる点でも重宝されてきました。コストが比較的低く扱いやすいことも、多くのメーカーが採用し続けてきた理由の一つです。
HEMAが問題になっている理由
HEMAが問題視されるようになったのは、接触性皮膚炎(アレルギー性皮膚炎)を引き起こすリスクが報告されるようになったからです。特に欧州においては、ネイリスト(職業的暴露)や消費者において皮膚感作(アレルギー反応を起こしやすい状態になること)が多数報告され、社会的な問題となりました。
さらに、一度HEMAに感作されると、その後はわずかな量でも重篤なアレルギー反応が起きるようになるため、完全にジェルネイルができなくなるケースもあります。また、コンタクトレンズや歯科治療など日常生活の他の場面でも支障が出る可能性があり、影響が広範囲にわたるという点でも問題になっています。
2. HEMAによるアレルギーの症状と見分け方
主な症状(かゆみ・赤み・腫れ・水疱)
HEMAによるアレルギー反応(接触性皮膚炎)は、主に以下の症状として現れます。症状が軽い場合はジェルネイルによるものと気づかないこともあります。
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かゆみ・刺激感
ジェルを塗布した爪周り・指先にかゆみや刺激感が現れます。施術中または施術後数時間以内に起こることが多いですが、遅延反応として24〜72時間後に現れることもあります。 -
赤み・腫れ
指先や爪周囲の皮膚が赤くなったり、腫れたりします。症状が強い場合は指全体が腫れることも。 -
水疱・ただれ
重篤なケースでは小さな水疱ができたり、皮膚がただれたりします。液体が染み出して皮膚が傷つくこともあります。 -
爪の変形・変色・脱落
アレルギー反応が爪床(爪の下の皮膚)に及ぶと、爪の変形や白濁、ひどい場合は爪が剥がれることもあります。これは爪甲剥離症と呼ばれる深刻な状態です。
アレルギーが出やすい人の特徴
すべての人がHEMAアレルギーになるわけではありませんが、以下の特徴に当てはまる方はリスクが高い傾向があります。
- もともとアトピー性皮膚炎や花粉症などアレルギー疾患を持っている方
- セルフネイルを頻繁に行い、皮膚にジェルが触れやすい方
- ジェルネイルを長期間(数年以上)継続している方
- ベースコートを省いてカラージェルを直塗りするなど、下処理が不十分な方
- 爪が薄い・傷んでいる方(バリア機能が低下しているため)
アレルギーかも?と思ったら(対処法)
ジェルネイル後にかゆみや赤みが出た場合は、以下の手順で対処してください。
- 施術を中止する — 症状が改善するまでジェルネイルを休止します。
- ジェルをオフする — 症状を悪化させないため、できるだけ早くジェルを除去します。爪を強く傷つけないように、リムーバーでのソークオフを行ってください。
- 皮膚科・アレルギー科を受診する — パッチテストで原因物質を特定できます。「ジェルネイルをしたらかゆくなった」と医師に伝えましょう。
- 使用していたジェルの成分を確認する — 受診時に持参、または成分リストを写真で撮っておくと診断の助けになります。
3. EU規制の動向と日本での現状
EU圏でのHEMA規制(2024年強化)
ヨーロッパでは、化粧品規制(EC Regulation No 1223/2009)のもとでHEMAを含むアクリレート類の規制が段階的に強化されています。2024年には欧州化学物質庁(ECHA)がアクリレート類を皮膚感作物質(category 1B)に分類し、消費者向け製品における使用制限を強化する方向で議論が進みました。
すでに複数のEU加盟国では、HEMA含有ジェルネイルに関して販売制限や使用制限を設けており、特にプロユースのみに限定する国(一般消費者が使用できないようにする規制)も出てきています。この流れはEU全体に広がる可能性が高く、2025〜2026年にかけてさらなる規制強化が見込まれます。
日本での規制状況
日本では2024年時点において、HEMAを含むジェルネイル製品に対する法的規制はありません。ジェルネイルは「雑貨」として流通する場合と「化粧品」として流通する場合があり、化粧品として届け出されたものは薬機法に基づく成分管理が行われますが、HEMAの使用自体は禁止されていません。
ただし、日本でも消費者庁や国民生活センターには、ジェルネイルによる皮膚トラブルの相談が毎年多数寄せられており、成分に関する注意喚起が行われています。業界団体(JNA:NPO法人日本ネイリスト協会)でも成分安全性に関する研修が強化される傾向にあります。
プロネイリストとしての見解
日本では規制がないとはいえ、リスクが存在する以上、選べるなら安全な成分を選ぶのがプロの姿勢だと考えます。特にセルフネイルは施術の精度がサロンより低くなりがちで、ジェルが皮膚につく機会が増えます。だからこそ、セルフネイルを楽しむ方こそHEMAフリーのジェルを選ぶメリットが大きいと言えます。
サロンでもHEMAフリーを希望するお客様が増えており、私のサロンでも対応できるよう製品の切り替えを進めています。これはニッチなこだわりではなく、これからのスタンダードになっていくと感じています。
4. HEMAフリーのジェルネイルキットおすすめ
HEMAフリーのジェルネイルキットはまだ種類が限られていますが、国内でも品質の高い製品が登場しています。以下では実際にサロンでも評価されているブランドをご紹介します。
PICK UP 01
cirila(シリラ)ジェルネイルキット|HEMA不使用・7-FREE処方・日本製
参考価格:12,680円前後(LEDライト付きスターターキット)
7-FREE処方とは何を排除しているのか
cirila の7-FREEとは、以下の7種の成分を配合していないことを意味します。
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)/トルエン/ホルムアルデヒド/ホルムアルデヒド樹脂/フタル酸ジブチル(DBP)/ショウノウ(カンファー)/ジフェニルアミン。これらは皮膚刺激・アレルギー・毒性のリスクが指摘されている成分です。
サロンで使ってみた感想
cirila の主なスペック
- ジェル種別:ソークオフタイプ(アセトンで除去可能)
- 付属カラー数:キットによって異なる(スターターキット:8色前後)
- LEDライト:18W(硬化時間約30〜60秒)
- 製造:日本国内製造
- HEMA不使用:全アイテム共通
PICK UP 02
SHINYGEL(シャイニージェル)ジェルネイルキット|成分透明性が高い国産ブランド
参考価格:12,650円前後(18W LEDライト付きスターターキット)
SHINYGELは業務用ネイル製品を展開するプロ向けブランドで、品質の安定性はサロンユースでも高く評価されています。購入前に公式サイトで成分を確認し、HEMAが含まれていないバリエーションを選ぶことが重要です。
HEMAフリー2ブランド比較
| 比較項目 | cirila(シリラ) | SHINYGEL |
|---|---|---|
| HEMA不使用 | 全品不使用 | 一部ライン不使用 |
| 処方 | 7-FREE | 成分開示あり |
| 製造 | 日本製 | 日本製 |
| 参考価格 | 約12,680円 | 約12,650円 |
| LEDライト | 付属(18W) | 付属(18W) |
| 敏感肌向け設計 | あり | 要確認 |
5. HEMA以外に注意すべき成分
7-FREE、10-FREEとは
ネイル製品の「〇-FREE」表記は、特定の有害成分を排除していることを示すラベルです。数字が大きいほど除外している成分が多いことを意味します。
| 表記 | 排除する代表的な成分 | 目安 |
|---|---|---|
| 3-FREE | トルエン、ホルムアルデヒド、DBP | 基本ライン |
| 5-FREE | 3-FREE+ホルムアルデヒド樹脂、カンファー | 標準的な安全品 |
| 7-FREE | 5-FREE+HEMA、ジフェニルアミンなど | 敏感肌・HEMAフリー対応 |
| 10-FREE | 7-FREE+TPHP、パラベン、アセトンなど | 最高水準の低刺激処方 |
トルエン・ホルムアルデヒドなどの有害成分
HEMA以外にもジェルネイル・ネイルポリッシュに含まれる可能性のある有害成分を知っておきましょう。
- トルエン(Toluene) — 有機溶剤。吸入すると頭痛や神経毒性のリスク。EU・カナダでは化粧品への使用が禁止されています。
- ホルムアルデヒド(Formaldehyde) — 防腐・硬化目的で使用。発がん性の可能性が報告されており、IARC(国際がん研究機関)では「グループ1(ヒトに対して発がん性あり)」に分類。
- フタル酸ジブチル(DBP) — 可塑剤(硬化を遅らせる用途)。内分泌かく乱物質(環境ホルモン)として規制対象。EUでは化粧品への使用禁止。
- カンファー(Camphor) — 刺激臭・毒性あり。皮膚への刺激が報告されています。
- TPHP(リン酸トリフェニル) — 可塑剤として使用。内分泌かく乱作用への懸念があります。
成分表示の見方
ジェルネイル製品の成分を確認するには以下の方法があります。
- ラベル・同梱文書を確認する — 化粧品として届け出されている製品は、全成分表示が義務付けられています(薬機法に基づく)。
- メーカー公式サイトを確認する — 多くのブランドがWebサイトで全成分を公開しています。
- HEMAの表記を探す — 「HEMA」「2-Hydroxyethyl Methacrylate」「ヒドロキシエチルメタクリレート」のいずれかが書かれていればHEMAが含まれています。
6. HEMAフリーのジェルネイルのデメリットと対策
HEMAフリーのジェルネイルには、安全面でのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。それぞれの対策を知っておくことで、デメリットを最小限に抑えることができます。
密着力がやや弱い場合の対処法
HEMAはジェルと爪の密着を高める役割を担っていたため、HEMAフリーのジェルは密着性が若干低くなる場合があります。ただし、以下の対策でカバーできます。
- プレパレーション(下処理)を徹底する — 爪の油分・水分をしっかり除去します。プレプライマーの使用が特に効果的です。
- スポンジバッファーで爪表面を軽く整える — 爪表面に細かいキズをつけることで、ジェルが引っかかりやすくなります。やりすぎると爪が薄くなるので注意。
- プライマーを使用する — HEMAフリー対応のプライマーを使用することで密着力が大幅に向上します。
- 薄く均一に重ね塗りする — 厚塗りはリフトの原因になります。薄く2〜3層に分けて塗ることで仕上がりと持ちが安定します。
- エッジ(爪先)をしっかりシールする — 爪先のエッジ部分にもジェルを塗ることで、先端からのリフトを防ぎます。
価格が高めになる傾向
HEMAフリーのジェルは、代替成分の開発・製造コストが高いため、HEMA配合製品と比べて価格が高くなる傾向があります。cirila のスターターキットは12,000円台で、一般的なジェルネイルキットと同程度ですが、単品でカラーを追加購入する場合のコストはやや高めになります。
ただし、アレルギーが発症してからの治療費・サロンへのお断り・ジェルネイルが一切できなくなるリスクを考えると、予防のためのコストとして十分に価値があると考えています。
色数が少ない場合がある
HEMAフリー市場はまだ規模が小さく、HEMA配合製品と比べてカラーバリエーションが限定的な場合があります。ただし、近年は急速にラインナップが拡充しており、cirila では40色以上のカラーが展開されています。トレンドカラーへの対応も年々向上しています。
7. 安全にジェルネイルを楽しむためのプロのアドバイス
パッチテストのやり方
新しいジェル製品を使う前は、必ずパッチテストを行うことをおすすめします。特に初めてジェルネイルをする方、アレルギー体質の方は重要です。
- 少量のジェルを腕の内側(肘の裏)の皮膚に薄く塗布します。
- LEDライトで指定時間硬化させます。
- 48〜72時間そのまま観察します。
- かゆみ・赤み・腫れが出た場合は使用を中止し、皮膚科を受診してください。
- 反応がなければ通常の施術に進みます。
長時間の施術を避ける理由
施術時間が長くなるほど、未硬化のジェルが皮膚に触れる機会が増えます。これが感作のリスクを高める原因の一つです。特に注意が必要なのは以下の点です。
- ジェルが皮膚に触れたまま放置しない — 皮膚についたジェルはウッドスティックなどですぐに除去してから硬化してください。
- 硬化不足を防ぐ — 指定の硬化時間を必ず守り、特にサイドウォール(爪の端)まで均一にライトを当てます。
- 施術は集中して行う — ながら作業で施術時間が延びると、未硬化のジェルが皮膚に触れ続ける時間が増えます。
爪を休ませる期間の目安
ジェルネイルを続けると、爪が薄くなったり乾燥しやすくなったりします。爪の健康を保つためには定期的に爪を休ませることが大切です。
- 月1回のオフ時に爪の状態をチェック — 白くなっていたり、ペラペラに薄くなっていたりする場合は休息のサインです。
- 3〜4ヶ月に1回、2〜4週間の休止期間を設ける — 爪の厚みが戻る期間として2〜4週間を目安にしてください。
- 休止中のケア — キューティクルオイルやネイルオイルを毎日塗布して、爪と周囲の皮膚を保湿します。
8. よくある質問(FAQ)
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HEMAフリーならジェルネイルアレルギーにならない?
HEMAフリーであればHEMAによるアレルギーのリスクは回避できますが、アレルギーになるリスクがゼロになるわけではありません。HEMA以外にもアクリレート系モノマーは複数存在し、それらに反応する可能性があります。HEMAフリーのジェルを選びつつ、パッチテストを行うことを合わせておすすめします。また、もともとアレルギー体質の方は皮膚科医に相談した上でジェルネイルを楽しむことが安心です。
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今使っているジェルにHEMAが入っているか確認する方法は?
ジェルの容器または同梱の成分表示シートを確認してください。「HEMA」「2-Hydroxyethyl Methacrylate」「ヒドロキシエチルメタクリレート」という表記があればHEMAが含まれています。表示が見つからない場合はメーカーのWebサイトや問い合わせ窓口で確認しましょう。日本語以外の成分表示しかない場合は、INCI(国際化粧品原料命名)で「HYDROXYETHYL METHACRYLATE」が含まれていないかを確認してください。
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HEMAフリーのジェルは持ちが悪い?
HEMAはジェルと爪の密着を高める成分のため、HEMAフリーのジェルは密着力がやや劣る場合があります。ただし、プライマーの使用・丁寧なプレパレーション(下処理)・油分のしっかりした除去などの工夫で、HEMA配合ジェルと遜色ない持ちが実現できます。最近のHEMAフリー製品は代替成分の改良が進んでおり、初期の製品と比べて持ちは大幅に向上しています。
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妊娠中でもジェルネイルは大丈夫?
妊娠中のジェルネイルについては、医学的に明確に禁止されているわけではありませんが、ジェルに含まれる化学成分・換気の状況・施術時間などを考慮して慎重に判断することをおすすめします。特に妊娠初期(妊娠12週まで)は薬剤に敏感になりやすいため、かかりつけの産婦人科医に相談した上で判断してください。やる場合はHEMAフリーかつ10-FREE処方など低刺激性のジェルを選び、換気を十分に行うことが大切です。
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HEMAアレルギーになると二度とジェルネイルができなくなる?
HEMAへのアレルギーが完成した場合、HEMA配合のジェルネイルは使用できなくなります。ただし、HEMAフリーの製品であれば引き続き楽しめる可能性があります。ただし、一部の方ではHEMA以外のアクリレートにも反応が広がるケースがあります。アレルギーが疑われる場合は皮膚科・アレルギー科でパッチテストを受け、何に反応しているのかを特定してから製品を選ぶことをおすすめします。
9. まとめ
HEMAは多くのジェルネイル製品に含まれる成分で、その優れた密着性からこれまで重用されてきました。しかしアレルギー性皮膚炎のリスクが明らかになり、EUでは規制が強化されています。
特に注意すべき点は、「今は平気でも将来アレルギーになるリスクがある」ということです。感作は繰り返しの暴露で蓄積されるため、症状が出る前から予防的にHEMAフリー製品を選ぶことが、長期的にジェルネイルを楽しみ続けるための賢明な選択です。
- HEMAは密着性に優れるが、繰り返しの暴露でアレルギー(感作)リスクがある
- 症状が出てからでは遅い——予防的にHEMAフリーを選ぶのが得策
- EU圏では規制強化が進行中。日本でも業界の意識が高まっている
- HEMAフリー最有力は cirila(シリラ):7-FREE処方・日本製・スターターキットあり
- HEMAフリーのデメリット(密着力)は正しいプレパレーションでカバーできる
- 成分表示の確認・パッチテスト・爪の休息を習慣にすることが重要
セルフネイルを安全に、そして長く楽しむために、今日からできることをぜひ実践してみてください。ジェルネイルキット全体のおすすめについては、親記事もあわせてご覧ください。
監修者:YUMEKO(ユメコ)
ネイルサロンYNESTオーナー・ネイリスト
恵比寿・中目黒にてネイルサロンを運営。JNAジェルネイル技能検定上級取得。サロンワーク歴10年以上、延べ数千人のお客様に施術を行ってきた現役ネイリスト。HEMAアレルギーの相談を受けた経験をもとに、安全なジェルネイルの普及に取り組んでいる。
当記事の情報は執筆時点(2026年3月)のものです。製品成分や規制情報は変更される場合がありますので、最新情報はメーカーおよび各規制機関の情報をご確認ください。
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